京都・同和「裏」行政──現役市会議員が見た「虚構」と「真実」 村山祥栄

京都・同和「裏」行政──現役市会議員が見た「虚構」と「真実」 (講談社+α新書)

京都・同和「裏」行政──現役市会議員が見た「虚構」と「真実」 (講談社+α新書)

著者は京都市議会最年少当選、2期は左京区でトップ当選、その後京都市長に立候補してあえなく落選し
現在失職中?
この本はその市長立候補の2ヶ月前に出版されたが、選挙対策として書かれたかどうかは分からない。
村山氏が立候補した事で相乗りの候補と共産党系の候補がわずか951票差の接戦になった辺り皮肉だ。


京都市交通局、環境局、そして同和対策事業に関する問題が書かれている。
不祥事や談合が次々と暴かれていく様は実に痛快であり、実態には呆れるしかない。
某A局のMという番組で交通局、環境局に関しては結構報道していたが、かなりこの人のソースを使っていたようだ。
ただ、あの番組では同和関連を報道してたっけ...記憶にないのは見てないからなのかMがぬるぽなのか。


大げさに考えるならば、この本はコーポラティズム(協調主義・談合主義)に対抗するリベラリズム(自由主義・ルール主義)という話に
なるのだろうか。
国政まで行くと共産党が比較的談合的なものを糾弾してくれる立場になったりするものだが、
その共産党の牙城である京都市ではむしろ糾弾される側に回ってる*1だけに
党派によらない無所属議員が地方でこの役回りをしてくれる事に期待するしかないのだろうか。
例えば高槻にも北岡隆浩なんて人が住民監査請求を使って色々やってるみたいだけど。
本来ならば民主党にこの役割を期待したい所だが、旧社会党系がまだ残ってる党にコーポラティズムからの脱却なんて期待できるかね?
というのが正直な感想。



創氏改名―日本の朝鮮支配の中で (岩波新書 新赤版 1118)

創氏改名―日本の朝鮮支配の中で (岩波新書 新赤版 1118)

元ハン板住人なウリなので、多少知識あるかなと思ってたけど違ったみたいですね...
若干左翼の香りがするが、朝鮮総督府の資料と当時の新聞記事をソースとしているので信憑性は高いと思われる。
創氏改名を合理化する考え方が未だに根強く残っているとして
麻生太郎の「創氏改名は朝鮮の人たちが苗字をくれと言ったのがそもそもの始まりだ」との発言に加え


『「植民地朝鮮」の研究』 杉本幹夫著
「植民地朝鮮」の研究―日本支配36年
マンガ嫌韓流』 山野車輪
マンガ嫌韓流
この2冊を批判する。この批判自体は妥当なものだ。
かねてから考えてたことだが、嫌韓流で引用されていた洪思翊、朴春琴のように朝鮮名のままでいた人もいるのだから
創氏改名は強制ではなかったというロジックには問題あるだろう。
経歴見ればこの二人がいかに特殊な人間かが分かるし、一番肝心なのは創氏の時代この二人は朝鮮にいない事だ。

  1. 朝鮮名を維持した者がいたので、必ずしも強制ではなかった
  2. 創氏は義務だが、改名は任意だったので全体として強制ではなかった
  3. 満州や日本「内地」に居住していた朝鮮人をはじめ多くが日本名を望んでいた
  4. 戸籍に姓の記載は残ったので、朝鮮人の名前を奪ったとはいえない

この4項目を否定する構成にはなってないが、概ねこのような強制性否定論(強制「性」であることに注意)を論破する事を目的にしている。
但し4つ目に関してはほぼノータッチ。


創氏改名総督府内でもコンセンサスが得られていなく、
特に日本風に改名されると朝鮮人朝鮮民族)と日本人(大和民族)との区別が付かないからと警務局が反対したというくだりは
創氏改名は強制ニダ!と訴えたい人達にとってはあまり都合よろしくないだろうなw


創氏改名は日本化政策の一環で、朝鮮の本貫制を廃し、日本的な家族の頂点に天皇を据える形態にしたいという目論みはあっただろう。
しかし創氏の欄に本貫も併記されたという暫定的なものでは実態としてどうか?と考えざるを得ない。
どうやら本気で日本化政策を推し進めようとしたものではなく、
総督府長の鶴の一声で決まったから実施してみたが、あまりにも浸透してないと総督府の沽券に関わる問題になるので、
もうちょっと真面目にやらないとやばくね?みたいな空気になったという感がある。


実際のところ、警察権力が一部を除き非協力的であった事や、
手続きが解禁された直後の創氏登録が10%もいかなかったこと、
手数料も必要だった改名の登録が10%未満であったこと、
総督府が各種団体に圧力を掛けて最終的にには70%程度の登録割合になったこと、30%は未登録だったことを考えれば
朝鮮人からの要請でもなく、自主的でもなく、総督府からの直接的な強制もなかったという意味で
「創氏には強制性があった」という言葉に落ち着くんだろう。
改名に強制はほとんど無かったのは間違いないだろう。


むしろ疑問なのは、強制性があったからどうなのよ?そもそも創氏改名なんて大した問題じゃないんじゃね?というもので、
日帝36年のうち後半10年の出来事だからというのもあるが、
創氏反対運動で検挙され実刑を喰らった資料があるのがわずか5名、しかも懲役1年、1年、8ヶ月、6ヶ月、6ヶ月と
比較的軽い刑罰しか与えられていない。
必要ないから積極的に登録しなかったが、何かやれと言われたから別に損をする訳じゃないし消極的に登録したというのが
実態で、一般の人間にとっては創氏改名などどーでもいい事だったのではないか。
そもそも名前を換えたのが日帝時代だけの特別な事象ではなく、
元の支配下に置かれていた時代にもモンゴル風の名前付けてる訳だしなぁ。李とか朴とか一文字なのも中国風だし。


創氏改名に限らず、日本化計画の全てに言えることだが、
この動きが必ずしも朝鮮に対する弾圧にベクトルが向いていないことに注意する必要があるだろう。
日本化とは朝鮮のアイデンティティや独立には重大な危機をもたらすが、
真の意味での韓国併合、すなわち朝鮮の地位向上、脱植民地化へのベクトルと同一である。
日露戦争以降の朝鮮人においてメジャーな考え、少なくともマイノリティ的な考えではないことを忘れてはならない。
韓国では単に親日派として糾弾する対象にしか考えてないのだろうけど。


現代アラブの社会思想 (講談社現代新書)

現代アラブの社会思想 (講談社現代新書)

正直アラブに関して全く知識がないのでぱっと目についたものを手にとってみた。
大佛次郎論壇賞受賞作ではあるのだが、イスラムに関する一般教養を得るという目的には合わなかったようだ。
だが、結構面白い。
第三次中東戦争でアラブがこてんぱんにやられた後、社会思想がどのような変化をしたかが述べられている。
一つは社会主義共産主義
大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国、要するにリビアの成立、
パレスチナ解放機構(PLO)、パレスチナ人民解放戦線(PFLF)などの団体が主な流れ。
日本赤軍が国内から海外に拠点を移したとき、パレスチナ問題に首を突っ込んだのはこういう時代背景があったのね、
と知らなかった自分が恥ずかしいですね率直に。
キューバ革命ヴェトナム戦争文化大革命と当時は明るい兆しが見えた社会主義だが、
社会主義の現実が明らかになるにつれこの流れは後退していく。


一つは保守的とも言えるイスラム回帰運動。先鋭化したのがアルカーイダなどのイスラム原理主義

「近代西洋の価値・理念にもとづいたさまざまな施策は、アラブの社会の抱える問題になんら解決策を示してくれなかった。
 われわれが立ち返るべきはイスラームだ。イスラームにこそ最終かつ最適の解決策があるはずだ。」
p84

このような運動が主流になるのは理解できる。
しかし、穏健派がイスラム教の本分に立ち返れば万事解決という楽観論に彩られているらしい。
イスラームが解決だ」
そりゃ具体策を何も提示しないこんな考えに納得しない人間が先鋭化して原理主義者になりテロ起こすわな、と思わなくもない。


思想的には社会主義イスラム主義に分化したが、アラブ人も馬鹿ではない。
ちゃんと現実主義な人間もおり、実際の政治では現実主義で動いている。
しかし社会思想を無視しているので、まともな思想が育っていないのだという。


ここまでが第一部で、第二部では終末論に関する記述になる。
イスラム教における終末論の記述が続いた後、具体的にどのような本が流布されているかという話になると
今俺はトンデモ本の世界・アラブ編を読んでたっけ?と思ってしまう。
「偽救世主」「ユダヤ人とモサド」「アメリカ人とCIA」「フリーメーソン」「ノストラダムス」「1ドル札裏に描かれたピラミッド」
...見事に「と」やMMR的な内容満載である意味面白いw
でもまー、やっぱり求めてたものとは違うよなぁ。

*1:但し、同和行政と共産党が現実に関連してるかは知らない。