地下灌漑(かんがい)法

とまぁ、農業に関する暗い話題だけじゃ何なので、明るい話題を。
最近のお気に入りはこの月刊誌。

現代農業 2008年 12月号 [雑誌]

現代農業 2008年 12月号 [雑誌]

いやマジで面白いんだって。共感得られないだろうし、お勧めし辛いけどなw
各農家が行っている独自の創意工夫を紹介する雑誌という言い方が正しいだろう。
この創意工夫が読んでて楽しいんですね。
そして、農業は科学だというのを改めて思い知らされる。


例えば肥料に関する記事なら、チッソ、リン酸、カリウムの三大要素のバランスとphの問題になるので、まさに化学。
ただ、肥料の記事はどの作物にはどんな配分か、有機肥料ならどんな割合で含まれるかという話でしかないので、
基本的に門外漢にとって面白い記事ではない。
稀に水田に海水や塩を撒くといった常識ではありえない方法が紹介されてたりするので侮れないが。
塩分の許容量以下ならば、海水に含まれる微量元素が有効な場合があるそうで。


常識を覆すという意味では、今のところ地下かんがい法が白眉。
こちらは工学的だ。

日本の田んぼが、大きく変わるかもしれない。福士武造さんの田んぼを見ていると、大げさでなくそう思えてくる。
現代農業 2008年12月号 自分でできる地下かんがい法 108-117p

この書き出しで始まる記事が大げさでなくそう思えてくる。
素人の私には判らないが、農家の人ならきっとこの写真で衝撃を受けるのだろう。

左側:福士さんの転作ダイズ
下側:こんな段差がある隣の田んぼには満々と水が張っているのに、福士さんの転作ダイズ畑にはぜんぜん水が染み出していない


この「地下かんがい法」の効果は
1)排水性が飛躍的によくなる
2)入水が素早く満遍なくできる
3)地上・地下水位を自在に決められる


と書いている。付け加えるならば
田んぼの乾湿自由自在(≒入排水性の向上、水位の自在性、乾湿のムラ解消)
雑草の予防(入水の際、給水パイプから疎水材を通って湧き出すので、用水路から進入した雑草は地表に辿り着きにくい)
というメリットも。


原理は非常に簡単。

暗渠の効きがよくなる秘密は、空気抜き。従来の暗渠は、水が抜ける排水溝以外は土の中に埋まっているものが多い。これでは一ヶ所しか穴を開けていない缶詰め同様、暗渠管に空気が入ってこないので、水は流れ落ちにくい。
 しかし「地下かんがい法」では、新しく入れる暗渠の始点と終点に空気が自由に出入りできる給・排水マスを付けるほか、田んぼの用水側の角に空気抜き用の立ち上げ管もつける。だから水は暗渠管内をサーッと流れる。従来の暗渠管も、空気抜き付きの新しい暗渠とつなぐので、流れがよくなってくるというわけだ(図2)。


普通の田んぼは、水口から流し込んだ水が、地面に染み込んだりしながら水尻に向かってジワジワと広がりながら溜まっていく。早く入水したいと思っても、用水からの冷たい水を大量に流し込むと水口付近のイネの生育が遅れてしまうので、できるだけゆっくり入水する必要がある。
 でも地下かんがい法では、用水から暗渠に水を引き込み、地下から田んぼに水を入れる。まず田んぼ中の暗渠管(新しく入れた給水パイプと、それにつないだ既設の暗渠)内にサーッと流れて広がった水は、速やかに地上に染み出してくる(図3)。田んぼ全体に溜まるまでの時間は、「普通の田んぼの半分くらい」。また地下で温められた水が田んぼ全体に広がるので、生育ムラが起こることもない。


水位の調節に関する説明は省くが、暗渠は途中の勾配に多少狂いがあってもサイフォンの原理があるから問題ない、って辺りは科学だ。


では、この効果がどういう成果をもたらすのか。

 だから田んぼが、イネを育てる水田としてはもちろん、ムギやダイズ、あるいは野菜を育てる畑としても、自在に使えるようになる。むしろ天水にしか頼れない普通の畑よりも、「用水を使って自由にかん水できる田んぼのほうが、畑作物もよっぽどいいものができる」。
 地下には十分水があるのに土の表面は乾いた状態にできるから、雑草の発生もかなり抑えられる。


「地下かんがいにすることで、”いい田んぼ”と”悪い田んぼ”の差がほとんどなくなって、どこも機能性の高い田んぼにできる」。


施設は、バックホー一台レンタルすれば、ほとんど一人でもできる。慣れてくると、一枚一町歩の田んぼでも、一週間もあれば敷設できるという。また田んぼの土質や規模を選ばず、小さな棚田でもできる。

田んぼの土質や規模を選ばない万能な方法で、田んぼの質を向上させる。
特にフレキシビリティと減農薬や無農薬を目指すなら効果覿面。
この記事には書いてないが、湛水(たんすい)が容易なので連作障害を防ぐのも容易だろう。
日本でイネの連作が可能なのもこれが理由だったはず。


問題はコストだが、自力で敷設したとして反当たり6万円前後らしい。
これが高いか安いかは判らないが、本当に効果あるなら補助金を出す自治体も出てくるだろう。
最終的には補助金を貰いつつ工事を依頼してもメリットがあるかどうかが、普及する鍵になるのではないか。

「みんな『自分の田んぼではムギやダイズはできない』って言うけど、ホントはそんなことないんです。どこの田んぼでもムギやダイズがしっかりとれるようになれば、日本の自給率だって上がるはず。だからできるだけ多くの農家に、地下かんがい法を知ってほしいんです」

本当にこうなればいいんだがなぁ。


この記事、かなり反響があったのか4月号から連載が始まっている。
この方法が果たして全国に広がっていくのか、密かに注目してみたい。
こちらの記事も参考に。
田畑転換が簡単にできる灌漑排水用暗渠装置(NPO法人 関東EM普及協会)