自由と繁栄の弧 麻生太郎
- 作者: 麻生太郎
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/06
- メディア: 単行本
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「自由と繁栄の弧」(Arc of Freedom and Prosperity) このスローガンは素晴らしい。
「不安定の弧」と「平和と繁栄の回廊」を足して2で割った、という単純な思いつきなのかもしれないし、そもそも麻生太郎本人が思いついたのではなく例えば外務省幹部が考え出したのかもしれないが。
演説の内容としてはODAに関するものが比較的多く、麻生太郎のケインジアンな側面が浮き出ている感がある。
まぁ不況時には良いのかもしれないけどの...
以下、「自由と繁栄の弧」のスローガンについて。
まずは以前書いた内容をもう一度紹介する。
- 作者: 村田晃嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/02/18
- メディア: 新書
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主な外交は4つの主義からなり
(1)ハミルトニアン(富 ≒親英)
海洋国家(自由貿易) 対外関与に積極的 国力の限界に楽観的
(2)ジェファソニアン(富 ≒親仏)
大陸国家(孤立主義) 選択的な対外関与 国力の限界に自覚的
(3)ウィルソニアン(価値)
普遍的な理念を外交目標として追求(国連、人権etc.)
(4)ジャクソニアン(力)
国権の発動や国威の効用を重視 軍事力に傾斜
例えばモンロー宣言はジェファソニアン的ジャクソニアン
ネオコンはウィルソニアン的理想をジャクソニアン的手段で実現を目指すといったように
この4つの主義の複合で説明できるという。
http://d.hatena.ne.jp/a_flashgun/20080213/p2
世界的な趨勢として孤立主義は成り立ちにくい上に貿易立国の日本にとってジェファソニアンは選択肢として存在しない。
外国へ打って出るほどの軍事力は持ち合わせていないのでジャクソニアンも選択肢から外れる。
となれば日本外交にとってウィルソニアンとハミルトニアン、またはその組み合わせしか選択肢はない。
こんな至極当たり前なコンセプトなのにも関わらずスローガンが存在しなかった事自体がアレだ。
いやスローガン自体はあったのかもしれない。麻生太郎も「自由と繁栄の弧」という表現を使う前は
「経済的繁栄と民主主義を通じて、平和と幸福を」(Peace and Happiness through Economic Prosperity and Democracy)
と呼びかけている。ぶっちゃけ長すぎる。
「自由と繁栄」この二つをセットにした意義は大きい。
ODA援助は基本的に繁栄を助けるというハミルトニアン的政策だが*1ウィルソニアン的なものも忘れてはいけませんよ、または日本は自由主義の国としか手を組みませんよ。我々と手を組んで繁栄を享受したければ自由主義に移行してくださいね、という明確なメッセージとなる。
とかく経済の繁栄っぷりの目立つ日本が、繁栄の礎には自由がありますよと表明するのは説得力があるだろう。
また、「弧」という表現も素晴らしい。意味するのは二点でもあり一点でもある。
ひとつめは日本のライフライン確保。
ふたつめは実質的にロシアと中国を押さえ込む政策だということ。
これは言い換えるとシーパワーVSランドパワーの構造におけるシーパワーの連携となる。
シーパワーが連携する意味は、制海権の確保とランドパワーの勢力拡大阻止なので意味は一つとも言える。
だったらアジア海洋国家の自由と繁栄と言えばいいという話もあるが、「弧」という表現は融通無碍。
ロシアや中国が友好的ならばちょっと弧を太くしてこれらを取り込む柔軟性がある。
逆に、ロシアが非友好的ならば弧の西端に北欧の国が含まれることが意味を持つ。いわば遠交近攻。
元々ロシアと国境を接している国々は反ロシアが転じて日本には好意的な国が多いのだし。
これらの意味を凝縮した「自由と繁栄の弧」という短いスローガン。これこそが外交センスだ。