ケインズ 伊東光晴

ケインズ―“新しい経済学”の誕生 (岩波新書)

ケインズ―“新しい経済学”の誕生 (岩波新書)

こうふうと被ったがキニシナイ!
引用部分もだぶってるがキニシナイ!

p52-p53
ムーアは二つのことを強調した。第一は善とは定義できないということであり、第二は全体は部分の単なる算術的合計ではないという、有機的統一体の原則といわれるものである。
19世紀のはじめいらい、イギリスを支配していた思想はベンタムの功利主義哲学であった。それはすべての行動を、快楽と苦痛にわけ、それを加えたり引いたりすることによって善悪の判断を下すものであった。
(中略)
ムーアはこのような考えに反対した。なにが価値あるか、ということが明らかになって初めてわれわれにはどうしようという行動が生れるのだ。ベンタム主義はこの両者を区別していない。しかも青い色というのは、それを知らない人にとっては説明不可能のように、善はそれを知らない人にとっては説明不可能である。善はそれ自身のためにあるべきであって、それを知るには、その人とその人の直観にたよらあるをえない。
第二に、(中略)全体の価値は部分の価値の合計ではないのだ、ということを強調した。そして部分と全体との関係を分析するための武器として、理性ないし知性が大切であると考えた。この、全体はたんなる個の合計ではないという考えもまた、個々の快楽と苦痛の合計が総体の価値をきめるというベンタム主義への批判であった。

p145
「一般理論」にはいくつかの前提がある。いまこのうち主なものをあげると、
(イ)労働・資源は十分余っており、労働者は不完全雇用の状態である。
(ロ)社会全体の資本量は変化せず、したがって技術は変化しない場合を考える。
(ハ)資本の間には競争があり、部分的な不均衡は生まれない。
等である。これらは30年代の不況期の現実を基礎にしている。このような前提のもとで、かれの問題は、大量な失業はなぜ生まれるかという、労働市場の問題であった。雇用量をいかにして増すかがかれの問題であった

p148-49
雇用量をます政策としてはつぎの三つの政策がある。
 (1) 消費性向を高めること、同じことであるが、貯蓄性向を低めること。もしそれができるならば、たとえ投資が同じ量であっても乗数の値を大きくすることができるから、所得の水準はまし、雇用量は増加する。
通常豊かな人の貯蓄性向は大きく、貧しい人のそれは小さい。所得がある程度以下になれば、収入を全部消費しても生活できず、貯蓄を引き出して消費する場合もある。だからもし豊かな人の所得を全部消費しても生活できず、貯蓄を引き出して消費する場合もある。だからもし豊かな人の所得を累進課税によってとりたてて、貧しい人に社会保障その他で与えるならば、社会全体としての貯蓄性向は小さくなり、この要求を満たすことができる。祖税政策による平等化政策−−これが『一般理論』が指し示す第一の政策であった。
 (2)利子率を下げて民間投資をふやすこと。ケインズはその具体的な政策として公開市場政策を考えた。
利子率を下げたいときは、イングランド銀行が金融市場から国債や証券をどんどん買い入れ、資金を金融市場に流しいれてゆく。このことは、債権や株を売って現金で持とうとする売の人の力を弱め、逆に現金を債権にかえようとする買の人を援助することになるから、債権や株の時価は上り、利回りで表現された利子率は低下する。
 (3)利子率が下がってもなかなか民間投資がふえないときには、政府が進んで投資をふやすように、公共投資などのような政府投資をおこなう。または、財政の赤字を人為的につくって、有効需要をつくりだす。


 以上であった。
ケインズは利子率を下げて民間投資をふやすことを第一に考えていた。というのは(1)の租税政策による平等化は、今すぐに効力を発揮するものではなく、漸進的なものであり、(2)の政策は、投資家階級の貨幣愛という病原を取り除く直接的な手段だと考えたからであった。にもかかわらず、ケインズは(2)の政策がやがて限界に達することを予見していた。たとえ利子率が下がっても、利子率にはこれ以上下がらないという限界がある。(中略)そのため政府の投資という(3)の政策が今後登場しなければならない。これがケインズの考えであり、1920年代以来、かれが失業対策として主張してきた公共投資による不況と失業対策の理論家であった。

個人的には今日本がとるべき政策は(2)だと思っている。確かに利子率は0以下にならないが、インフレが起これば実質0以下になる。
所謂インフレターゲットだとかリフレだとか上げ潮派と呼ばれるのがこれに当たる。
(3)を選ばない理由は、公共投資が道路や箱モノといった必ずしも要るものではないものに投資され易いという硬直性が一つ。
新規産業に投資というのはある程度この縛りからは解放されるが...
もう一つは、この時代に比べて民間の経済規模が大きくなってると思われるので、効果が薄いのではという疑問があるからだ。
GDPを0.4%引き上げても根本的な解決にはならないんじゃね、と。